Fantiaのダッシュボードを開いて、ため息が出る。今月のサブスク収益、先月とほぼ変わらない。いや、微減している気さえする。
東京の小さなアパートで、私はスマホの画面を眺めながら、冷めたコーヒーを飲んでいた。ケープタウンの強烈な日差しの中で、砂浜を背景にポーズを決めていた数年前が、遠い夢のように感じる。あの頃は「綺麗に撮れればなんとかなる」と思っていた。でも、日本に来てFantiaを始めて2年。フォロワーは増えたのに、収益が頭打ちだ。
「ネタ切れ」「マンネリ」「燃え尽きそう」。
そんな言葉が、毎晩ベッドに入ってから頭をよぎる。栄養コーチとして「継続こそ力」とクライアントには言っているのに、自分のコンテンツ制作にはその「継続の仕組み」が欠けている。焦りだけが先走り、深夜までアイデアを絞り出してはボツにする日々。これでは、私が目指す「構造化されたウェルネスチャレンジ」を提供するコンテンツクリエイターとして、持続可能じゃない。
なぜ「頑張る」だけでは報われないのか
ある夜、ふと手に取った哲学書で、トマス・アクイナスの言葉にハッとさせられた。
「習慣は第二の天性なり」
アクイナスは『神学大全』で、徳(ヴィルトゥス)とは特別な才能でも、一時の気合いでもなく、**「良い習慣(ハビトゥス)」**として定着したものだと説いた。意志の力だけで毎日頑張るのは「第一の天性(生来の性質)」に頼ることで、いずれ尽きる。だが、行動を「習慣」というレールに乗せれば、意志力を消費せずに継続できる。
Fantiaでの私の失敗は、ここにあった。「毎日頑張ってネタを考える」という、意志力頼みの運用だったのだ。
アクイナスはもう一つ、重要な徳を説く。「節度(テンペランティア)」だ。これは単なる我慢ではない。「目的に合わせて、適切な量とタイミングで行動する知恵」だ。コンテンツ制作で言えば、「毎日投稿しなきゃ」と焦って質を落とすのではなく、「週3本、質の高い動画を安定して出す」と設計し、そのリズムを守ることこそが節度だ。
「型」を作れば、創造性は解放される
「でも、型にはめるとクリエイティブじゃなくなるんじゃ…」
最初はそう思った。ケープタウンで野外撮影をしていた頃の私なら、そう言い切っただろう。自由な発想こそが命だと思っていたから。
しかし、あるインタビューで知ったソフィー・レインの話が、私の考えを変えた。彼女はOnlyFansで年間4300万ドル(約60億円)を稼ぎ出した若きスターだ。その裏側には、衝動的な投稿ではなく、**「厳格なスケジュール管理」と「コンテンツのテンプレート化」**があったという。彼女は「型があるから、その中で自由に遊べる」と言う。
「型がないと、毎日『今日何撮ろう』で終わる。型があるから『今週はこのテーマで、この構成で、ここを変えよう』と即座に動ける」
なるほど。アクイナスのいう「習慣」とは、クリエイティブなエネルギーを「何時に起きるか」「何から手をつけるか」といった雑務に浪費させないための、省エネ装置なのだ。
私はすぐに、自分のFantia運用に「週間テンプレート」を導入した。
- 月曜: 週間テーマ決定・台本書き(栄養コーチ視点での「食と心のケア」など)
- 火曜・水曜: 撮り溜め(スタジオ・自宅・屋外ロケをローテーション)
- 木曜: 編集・サムネイル作成・予約投稿設定
- 金曜: ファンとのライブ配信・Q&A(ネタ出しも兼ねる)
- 土曜・日曜: 休息・インプット(読書・散歩・美術館)
「毎日投稿」をやめ、週3本(動画2本+ライブ1回)の「質の高い習慣」に切り替えた。最初は「少なすぎる」と不安だった。だが、アクイナスの「節度」を信じてみた。
「断る勇気」が、ブランドを守る
テンプレートを回し始めて2ヶ月。ある代理店から「PR案件で単発100万円」のオファーが来た。内容は「某サプリメントのビフォーアフター動画」。報酬は魅力的だが、私の栄養コーチとしての信条「短期的な見た目変化より、長期的な習慣改善」と真っ向から対立する。
一瞬、迷った。今の収益なら、この100万は大きい。でも、ここで受ければ「節度」を欠くことになる。目的(信頼できるコーチとしてのブランド構築)から外れた「過剰な利益追求」だ。
私は、メガン・ボトニックの決断を思い出した。彼女は経済的に苦しい中、7万5000ドル(約1100万円)のOnlyFansオファーを断った。「自分が誇れない人間になりたくないから」と。彼女にとっての節度は「金銭的利益」より「自己整合性」だった。
私は丁寧に、しかし毅然と断りのメールを打った。「私の提供する価値と合わないため、お受けできません」と。
その翌週、あるサプリメントメーカーから「貴女の『継続する仕組み作り』の思想に共感した。年間アドバイザー契約をしたい」という連絡が来た。単価は低いが、長期的で、私のブランドを太くする話だ。「断って正解だった」と心から思えた瞬間だった。
ファンと「共に歩く」コンテンツへ
アクイナスは「友愛(カリタス)」を最高の徳とした。他者の善を、自分の善として願う愛だ。Fantiaでの「ファン」は、単なる課金ユーザーではない。私のコンテンツを通じて「より良くなりたい」と願う、道半ばの仲間たちだ。
リリー・フィリップスらがOnlyFansで気候変動啓発を行ったニュースに触れた時、その本質がわかった。彼女は「私の影響力で、誰かの行動が変わるなら」と、本来の「売り物」とは違うテーマで発信した。パラソーシャル関係(一方的な親密感)を、社会的な善へのアクションに転換させたのだ。
私も、Fantiaのコミュニティ機能を使って「30日間・朝プロテイン習慣チャレンジ」を始めた。ただ動画を置くだけでなく、専用スレッドで毎朝の報告をし合い、私がコメントで返す。完走者には、私のオリジナルレシピPDFをプレゼントする。
反応は想像以上だった。「先生、今日も飲めました」「仕事前のルーティンになりました」「肌の調子が違います」。コメント欄が、ファン同士の励まし合いの場になっていく。課金継続率(リテンション)が、導入前の68%から82%へ跳ね上がった。
「コンテンツを売る」から「習慣を共に育む」へ。これが、アクイナスの知恵が導いた、私のFantiaでの新しい戦い方だ。
今夜、あなたは何から始めますか?
部屋の明かりを消す前に、私は翌日のタスクを確認する。明日は火曜、撮影日だ。台本は月曜の夜に完成済み。衣装と小道具も玄関に準備してある。迷うことはない。ただ、淡々と「習慣のレール」の上を走ればいい。
アクイナスはこうも言った。
「小さな誤差が、終わりには大きな誤差となる」
今日の小さな「テンプレート通りの行動」が、半年後、一年後の「大きな差」を生む。焦らなくていい。節度を持って、自分のペースで、レールを敷き続ければいい。
ケープタウンの風を感じながら、東京の夜は静かに更けていく。あなたも、今夜、自分の「第二の天性」になる小さな習慣を、一つだけ決めてみないか。Fantiaのダッシュボードの数字は、きっとそれに応えてくれる。
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